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産科

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思春期

思春期とは医学的には「第二次性徴の始まりから成長の終わりまで」と定義されています。おおよそ8、9歳から17、18歳までの期間に相当します。女性では、初めて月経が来たり、乳房が発育したりと身体的に大きく変化成長する時期です。
思春期は、成長過程の時期で、初経、不正出血、おりものあるいは月経が来ないなど、乳房の発達が遅い、早い、陰毛が生えてこない、月経痛、など様々な問題がおこってきます。初経年齢は平均12歳3ヶ月。遺伝、栄養、社会経済構造により異なります。気候、人種による差はないらしいです。初経以後3年は不順がふつうです。また、身体の急激な変化とともに精神・心理的にも大きな変化がみられる時期でもあるため、学校や社会のストレスにより適応障害も起こしやすいといえます。また生徒のよっては初めてのセックス(初交)が行われる場合もありますが、最初のセックスでの避妊実施率は約50%と情けない実態が報告されています。これらの子達が十分な避妊と性感染症予防についての指導を受けているかどうかも重要なことになります。この時期には小児・思春期女子の婦人科的訴えに関する相談、若年女性の避妊・妊娠に関する相談など思春期にみられる精神的、肉体的な悩みについてケアが必要な場合があります。

月経


▲図1
月経はどのようにして起こるか

女性の性機能の周期的変化は脳下垂体のLH(黄体化ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)というホルモンによって調節されています。FSHが卵巣を刺激し、卵胞が十分発育し、エストロゲン(エストラジオール)というホルモンが十分になるとLHが多量に分泌されます(LHサージ)。その結果、排卵がおこり、かつ卵の抜けたあとの卵胞は黄体を形成します。黄体からはエストラジオールとともにプロゲステロンが分泌されます。子宮内膜は卵巣のホルモンによって周期的に調節されています。月経の前半(卵胞期)ではエストロゲン(エストラジオール)というホルモンにより内膜は増殖し、厚さがまします。

排卵がおこれば黄体から出るエストロゲンとプロゲステロンというホルモンで内膜の性状が変化し、卵が着床しやすくなるようになっています。黄体の寿命は2週間ですので妊娠が成立しなければホルモンは低下し、それによって支えられていた子宮内膜は剥脱し、月経として排出され、月経後新しい周期が始まります(図1)。妊娠に至り、着床が成立すると、hCGというホルモンが出て黄体が維持されるので月経は起こりません。
月経周期とは、月経が始まった日を1日目とします。そして、次の月経が始まる前日までを一周期として考えます。一般的な月経周期は28日といわれています。周期は、ストレスや体調不良などにも左右されやすいといわれています。日本人における月経周期は25日~38日周期、変動6日以内、出血持続3~7日、経血量20~140mが正常域といわれています。月経不順の原因としては、ストレスや睡眠不足、急な体重の変化、ホルモン分泌異常などがあげられます。無月経とは18歳になっても月経が来ないかまたは過去あった月経が3ヶ月以上来ないかの場合をいいます。前者は原発無月経で生まれつきの解剖学的異常や、発生異常による場合が多く見られます。後者は続発無月経といい月経理不順と似通った原因で起こります。

各種月経異常


▲図2
月経の人工移動

原発無月経

満18歳になっても初経がない場合をいいます。内分泌学的異常のほかに生まれつきの解剖学的異常、酵素異常、染色体異常などが含まれます。

続発無月経

初経の後、過去にあった月経が3ヶ月以上無いものを言います。妊娠を除外すれば体重減少増加、ストレス、運動あるいは乳汁漏出性、甲状腺機能障害、糖尿病でも見られます。

頻発月経

月経周期が異常に短縮したもの。一般には月経周期が24日以内で繰り返すものをいいます。

希発月経

月経の頻度が異常に少ないもの。ふつう周期が39日以上3ヶ月以内のものをいいます。

過多月経

月経の出血量が異常に多いもの。子宮筋腫、子宮腺筋症、卵巣機能不全症(思春期、更年期)などで見られます。鉄欠乏性貧血を呈し、鉄材投与が必要な場合もあります。子宮筋腫、至急腺筋症などの器質的疾患治療が必要な場合もあります。歯肉出血などほかの出血傾向があれば血液凝固異常に注意しましょう。ホルモン剤による月経調整が有効です。

過少月経

月経の量が異常に少ないものをいいます。量20~30mll以下、3日以内の場合が多く、黄体機能不全、無排周期症、Asherman syndromeなどが疑われます。

月経前症候群(PMS)

月経前3~10日黄体期のつづく精神的あるいは身体的症状をいいます。多くの場合、月経開始とともに消失します。症状はいらいら、のぼせ、下腹部膨隆感、下腹痛、腰痛、頭重患、頭痛、乳房痛、憂鬱など多彩です。比較的軽症で自覚があり、社会生活上QOLに影響が軽ければ月経前の変調として対症療法、ホルモン剤、鎮痛剤、安定剤、漢方薬などで対応します。中等症以上の場合で社会生活上問題となれば治療に入ります。

月経前不快気分障害

発症は上記に同じですが、焦燥感、不安感、脅迫感、自己喪失感、落涙など精神症状が強く仕事、家庭生活上、あるいは人間関係上、日常生活に支障をきたすものをいいます。最近の研究では本疾患はホルモンの異常ではなく、黄体ホルモンに対する感受性の問題で、黄体ホルモンによって誘導される周期的うつ状態と考えられています。治療としては規則正しい生活、食事、週-3回の定期的運動、コーヒー、タバコを控える。責任のあることから少し距離をおくなどの生活指導とともに、SSEI(セロトニン選択的取り込み阻害剤)などの軽い抗うつ剤を併用するのが有効であるとされています。

月経日の人工移動

仕事、旅行、スポーツ、受験その他の理由により月経を移動させる必要がある場合、性ホルモンを用いて調節できます。用いるホルモンは卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の合剤、いわゆる中用量ピルです。月経移動の方法は月経を遅らせる方法と月経を早める方法であります。いずれの場合も最近の月経開始日、最近の月経周期、次回月経の予定、月経をさけたい時期、来院した月経周日に関する問診から適切な服用開始時期と日数を算出します。月経を遅らせる方法は黄体期を延長させる方法で予定月経の少なくとも3日前(できれば5日前)から必要な期間服用します。内服を終了すると2~5日程度で月経(消退出血)が起こり、次の月経はその出血を月経開始として通常通り1ヶ月後に起こります。月経を早める方法は排卵を抑制する方法で月経の開始5日目までに来院指導を受けることが必要です。月経周日5日目より開始し、月経を来させたい日の3~5日前まで服用します(図2)。卵胞発育が始まってしまっている場合には失敗する場合もあるので確実投与法が守れる場合にのみ選択します。

妊娠

順調に着ていた月経が遅れている場合、思い当たる場合は妊娠の可能性があります。月経が不順な人はそれになれているので妊娠を見過ごす場合があります。また月経がまれにしか来ない人は判断が難しいです。毎回妊娠反応を行いのも費用がかさみます。このようなかたは基礎体温をお付けになってはいかがでしょうか、必ずしも毎日つける必要はありません。まず4~5日ほどつけて低温相ですと妊娠はありません。高温相ですと14日測って、月経がくればよいし、こなければ妊娠反応を行いましょう。妊娠反応は順調な人は排卵が通常通り起こったと仮定すれば、次回月経予定日にはほぼ100%陽性とでます。あるいは妊娠可能な性交後2週間で陽性にでます。いずれにしても妊娠したと思われましたら、初期の正常の確認、流産、子宮外妊娠、胞状奇胎などの早期予測が必要ですので早めの産婦人科受診をお勧めします。なお妊娠しても少量の月経様出血を起こす場合があります。このような場合は最終月経を1ヶ月前に移動して考えないといけません。しかしこれをもって妊娠と判断することも早計で間違いのもとです。一般につわりは6週から始まります。つわりも軽度で極端な体重減少がなければ食事の回数を増やす、野菜を中心にする、などですめばよいですが、それ以上の場合は妊娠悪阻といい。点滴治療、ビタミン補給が必要な場合があります。尿のケトン体の量により客観的につわりの程度を判断できますので医師に相談し指示を仰いでください。

避妊について


▲図9
わが国で用いられている避妊法(%)


▲図10
各種避妊法使用開始1年間の失敗率


▲図11
我が国と欧米先進諸国における
避妊法の相違点

一般に男女が好きな人ができた場合、セックスはお互いの愛情表現として重要です。しかし、セックスにはいろんな価値があります、愛情表現、快楽、子供を作るため、そのほか女性はセックスのいろんな価値を追求する権利があります。それぞれに独立した価値があり、それぞれの価値観を追求してセックスをおこないます。しかし、愛情表現や、快楽のためにセックスをして結果的に意に沿わない子供ができたときどうするでしょう。女性は人生設計に基づいて計画的に避妊妊娠選ぶことができます。したがって、女性は性生活が始まった時点で、それらの方法をよく理解し、避妊を実践することが人生設計を行う点で重要なことであるといえます。しかし、日本人はほかの点では理性的民族ですが、望まない妊娠が最も多い先進国です(この点では先進国ではない)。初交(初めての性交)年齢が低下していますが、初交時の避妊の実施率は50%しかありません。日本における若年者の避妊は危機的状況といわざるを得ません。したがってわたしたちは若いうちから避妊法を実践できるように啓発しなければなりません。一般によい避妊法の条件は以下のようになります。①安全で副作用がない②効果が確実で失敗がない③性交時にわずらわされない④使用を中止すれば妊よう性が回復する⑤安価で入手しやすい⑥医療専門家に頼らずに実施できる⑦社会的にうけ入れられる⑧女性自ら使用するもの、もしくは女性の目にはっきりと見えるものである、です。これらの中から自分のライフスタイル、妊娠経歴、セックスに対する考え方、セックスに関する自己調節の能力、相手の避妊知識、などを総合的に判断して決めるのがよいでしょう。日本ではコンドームによる避妊が一般的です。しかし、こと避妊に関しては1年間での失敗率14%と決して確実な方法ではありません。欧米諸外国の避妊法の現状を図11に示しました。欧米では低用量ピルを中心に各種避妊法が選択されている実情が示されています。とくに欧米では若年者の場合、男女双方ともに性活動の自制が難しいことと若年で副作用がほとんど無いことで低用量ピルを用いるのが一般的です。年齢が進むとピル、子宮内避妊具(IUD)避妊手術などの選択となります。IUDは最近、銅付加IUDが発売され、5年間有効のものもあります。月経痛、月経過多の人にはさらにプロゲステロン製剤添加IUDも発売されています。性感染症については避妊法とは別の問題であり、コンドームが最もよい予防法であることには変わりありません。特に若年者でのクラミジアの感染が増えている現在、若い人たちには低用量ピルで避妊をコンドームで性感染症の予防をしましょうと啓発しています。


▲図12
OCによる避妊の仕組み


▲図13
ピルの副効用


▲図14
低用量ピル服用してはいけない人

低用量ピルについて

日本ではピルと呼ばれますがピルとは本来錠剤のことを意味する言葉です。遠まわしの表現として使用されています。諸外国ではOC(Oral Contraceptives: 経口避妊薬)と呼ばれています。基本的には卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の2つのホルモンが含まれています。これらのホルモンは基本的に卵巣から通常分泌されているホルモンと同類のホルモンです。低用量ピルでは副作用をできるだけ少なくするためにホルモン量を必要最小限にとどめていますが、毎日正しく服用することで確実な避妊効果が得られます。また子供がほしいときにはOCをやめれば速やかに妊娠可能となります。低用量ピルの避妊の仕組みは①排卵を促すLH(黄体化ホルモンの分泌を抑える②もし受精したときには受精卵の着床阻止③精子の進入を頸管で抑制、と考えられています(図12)。
低用量ピルにはホルモンの増減の調節により、1相性、2相性、3相性に分かれます。また服用の継続により持続性に服用する28日型、7日間の非服用期間のある21日型に分かれます。服用開始ははじめは月経開始日よりスタートし21日型は終了後7日間の非服用期間をおいて再開、28日型は継続的に服用します。このスケジュールは出血の止血の有無にかかわらず実行してください。低用量ピルには避妊以外の副効用があり、この目的で服用している方もおられます(図12)。ピルは比較的安全な薬ですが図13に示した症状や疾患のある方は使用できません。

ピルを飲み忘れたとき
定時に飲むのを忘れたとき
気がついた時点で服用、翌日は定時に服用する。
翌日に飲み忘れたことに気づいたとき
翌日に前日の分とあわせて2錠服用する
2日以上飲み忘れたとき
服用を中止し、その周期はほかの避妊法を実施、次の月経開始日から新たなシートで開始する。

緊急避妊法


▲図15
緊急避妊法

我が国では避妊法としてコンドームが広く使用されているにもかかわらず年間33万件あるいはそれ以上の人口妊娠中絶が行われています。諸外国の中で望まない妊娠の率が64%ともっとも高い数値を示す国です。これは我が国における避妊法がコンドームを中心とした男性主導に行われている現状を示しています。コンドームの失敗率は年間14%と決して確実な避妊法ではありません。破損や膣内遺残も珍しくありません。

従来から欧米ではこのようなときに中用量ピルを服用すると妊娠率を10分の1に低下させることができることが知られています。一般に避妊しないで妊娠する率は25%ですので緊急避妊法を実施することで。平均妊娠率を2%にまで抑制できることになります。方法は性交後72時間以内に中用量ピル(プラノバール、ドールトン)2錠を服用しその12時間後にもう一回2錠服用します。いざとなったときにこのような手段があることを知っておいたほうがよいでしょう。また最近プロゲスチン製剤レボノルゲストレルという緊急避妊薬が発売されています。本薬剤の難点は値段が高い点でしたが、最近後発品が発売され比較的使いやすくなりました。ちなみにフランスではより確実な緊急避妊薬(黄体ホルモン拮抗剤)が認可されています。ここで述べた緊急避妊法はあくまでの緊急時であり、通常はより確実な低用量ピルを使用するのがよいです。

人工妊娠中絶術

妊娠に至ったもののいろんな事情で産めない人のための処置です。
術前準備を行えば比較的安全に行えます。あまり週数が早いと異常妊娠(子宮外妊娠など)を見逃しますし、遅いと処置時の出血量が多いので5週後半から8週ぐらいがよいでしょう。12週を超えると届け出が必要になります。
まず予定を決めて最小限の血液検査をします。術前日に安全に処置が行われるために前処置を行います。前処置では子宮頸管を徐々に広げるスポンジのようなものを挿入します。あわせてガーゼを挿入します。前処置後に多少の痛みを伴いますが、やがて楽になります。
前処置後は抗生物質と痛み止めを服用していただきます。午後9時以降の食事は避けていただきます。シャワーは結構ですが、入浴はできません。当日朝、飲食は禁止です。飲食した場合は朝の処置はできません。体調チェックの後、異常反応が起こらないようにあらかじめ筋肉注射します。万が一に対応できるように点滴を確保します。妊娠中絶に要する実際の麻酔時間および処置は数分以内です。処置後にガーゼを留置します。1~2時間程度休んで帰宅していただきます。
術後5日間はお薬を服用していただきます。数日は多少の出血と少量の組織が排出されます。量がだんだん増加したり、痛みが強くならない限り心配ありません。帰宅後、軽い食事をとったあと処置後処方の薬剤を服用開始していただきます。
なお中絶を行うと子供ができにくいのではと心配する人がありますが、処置後にきっちりと経過を見た場合、子供ができにくくなるということはありません。念のため付け加えておきます。翌日にガーゼ抜去にきていただきます。その後2~3回受診していただきます。シャワーはかまいませんが、入浴は原則出血がなくなってからにしていただきます。術後の月経は1ヵ月半以内に来ることが多いです。一般には排卵が先におこりますので最初の月経までの避妊には十分気をつけてください。

不妊症について

不妊症とは

不妊症とは妊娠を目的としたセックスがあって、2年以内に妊娠しない場合をいいます。婚姻の有無には関係しません。通常、妊娠可能日の性交による妊娠率(月別妊娠率)約25%に基づいた計算で、夫婦の90%以上が2年以内に妊娠するという事実に基づいています。また、子供を一人産んだ後、二人目が欲しくても、2年間妊娠しない場合は不妊症(続発性不妊)といいます。米国では治療を早めに行うことが重要視され、米国生殖医学学会では1年と定めています。一般に妊娠は実際にはもっと高率に起こっているのですが70%は不成功に終わり、50%は最初の月経前におこります。着床前の不成功は31%、最終的な流産率は約15%といわれます。流産の原因の多くは胎児にあり、母親側に問題のある場合は決して多くありません。流産を女性の側のせいにする場合がありますが科学的根拠は乏しいものです。年齢と不妊との関係について述べてみます。避妊をしないセネガルでは女性は一生で平均7.9人分娩します。妊娠率のピークは25歳、35歳からは急激に低下することがわかっています。40歳すぎたら30%は不妊となるようです。非配偶者間の人工授精(精子は正常と考えてよい)による妊娠率は30歳以下で74%、30~35歳で62%、35歳以上では54%となっています。従来この年齢による妊娠率の低下では子宮の老化が問題とされてきましたが、卵子提供による妊娠が高年齢の女性でも比較的よいところから、年齢による妊娠率の低下では卵の質の低下が原因ではないかと考えられるようになっています。

不妊症の原因


▲図3
妊娠に至る過程


▲図4
不妊症の原因別頻度

妊娠に至る過程には、排精(射精)、精子の頸管通過、受精能獲得、卵管への移動、排卵、受精、卵の卵管内から子宮への移動。着床の過程を踏みます(図3)。これらのどれかに問題があれば妊娠にいたりません。一般に不妊症の原因には男性側因子女性側因子、その両方に分けられます。不妊症の原因について図3に示します。男性側女性側の原因は半々で、女性が原因とは言い切れません。また両方に原因のある場合、原因の見つからない場合もあります。男性側の精液検査での異常が多く、そのうち男性側の治療法が成立するのが精索静脈瘤です。女性側原因としては卵管因子が多いですがその他、排卵因子(内分泌因子)が続きます。その他、子宮因子、精子-頸管粘液不適合、子宮内膜症、子宮筋腫などがあります(図4)

不妊症の検査治療計画

不妊症に場合、検査治療計画を作成するにあたっては科学的根拠に基づいてレベルを上げてゆくのが基本です。急ぐ気持ち、はやる気持ちはわかりますが、初歩的な治療でできるのにいきなり高度で、高額な医療に走るのは望ましいことではありません。いずれにしても決定的不妊因子検索とその克服から治療が始まります。したがって最初に行う検査は精子の異常を調べる精液検査、排卵の有無を調べる基礎体温表作成、卵管の通過性を調べる子宮卵管造営法(または通気検査)があります。

精液検査

5日間禁欲の後、検査当日、用手法にて容器に直接精液を採取します。精液量、精子濃度、運動精子数、奇形精子数、そのほか異常所見の有無を検索します。精子時間とともに死滅してゆきますのでできれば3時間以内に検査する。

基礎体温

正確に測定し、記録された基礎体温表は不妊症の診断、治療に欠かせません。
治療期間中は中断することなく測定し続けます。薬局で婦人体温計と記録ノートを購入する。睡眠前に、体温計、ノート、鉛筆を枕元に準備します。朝、目が覚めたら床の中でそのままの姿勢を保ち、体温計を舌下にくわえ、1~5分間静かに測定します。(毎朝できるだけ一定の時間に測定してください。)月経周期、排卵日同定、黄体機能不全の有無など治療上有用な情報がえられます。なお基礎体温上では体温が低下した日が排卵日、あるいは低下しないといけないと思っている方がおられますが、基礎体温はいろんなパターンがあり、必ずしも低下の必要はなく、低温相高温相2つに分かれていることが重要で、低温相最終日が最も妊孕性が高いことがわかっています。

子宮卵管造影検査(または通気検査)

子宮卵管造影法は子宮の入り口から造影剤を入れて、子宮の形卵管の通過性卵管周囲癒着を見る検査です。処置であり、かつ時間がかかるので痛みを伴います。通気検査は子宮の入り口から炭酸ガスを注入して、子宮内圧の変化、卵管からの排出音の確認によって卵管の通過性、機能を見る検査です。これらの検査は月経開始10日以内でしかも月経のない日にしかできません。子宮内膜が発育してからだと不正確になること、妊娠可能日に近くなるとできないのが理由です。

頸管粘液検査

一般に排卵直前になるとエストロゲンの作用で性管粘液が増量し、精子はそこを伝って子宮頸管内に入ります。それを助けるのが頸管粘液です。排卵前の頸管粘液は0.3ml以上に増量し、10センチ程度に糸を引き(牽糸性)、羊歯状結晶を形成します。患者さんによっては自覚できる方もいらっしゃいます。この機能がうまくいっていること、これにより排卵を予測するのがこの検査です。

フーナーテスト(ヒューナーテスト)

排卵日前後、頸管粘液の増加しているときに行う検査です。当日朝に夫婦関係を行い、そのまま30分保ったあと来院していただき検査します。頸管の量、頸管粘液に混じっている精子の数、生存精子の数を調べます。精子と頸管粘液の適合状態を調べる検査です。ときとして頸管粘液の中には精子の受精能を悪くする場合があります。

血中ホルモン測定

排卵障害による不妊症でいろいろな原因が考えられます。原因の特定と障害の程度を推定するために月経開始7日以内に5種類のホルモン(LH、FSH、プロラクチン、エストラジオール、テストステロン)を調べます。排卵の予測ではエストラジオール、LH, 黄体機能を見るためには排卵後1週間目のプロゲステロン、エストラジオールを測定します。これらの検査により排卵障害の原因と程度を評価し、治療法の計画を立てます。

不妊症治療"不妊症治療


▲図5
不妊治療の種類


▲図6
一般不妊治療で得られる累積妊娠率

不妊症の治療は各種治療の中から順序良く、選択し、計画的にレベルを上げてゆく必要があります。治療は一般的不妊治療生殖補助医療に分けられます(図5)。一般不妊治療には性交指導、人工授精、クロミフェン療法、黄体ホルモン治療、hMG-hCG療法、男性不妊薬物療法、手術、子宮卵管病変に対する手術、子宮内膜症の治療などが含まれます。生殖補助医療には卵管内配偶子移植(GIFT)、体外受精ー胚移植、接合子卵管内移植(ZIFT)、凍結胚移植、顕微受精、胚盤胞移植などが含まれます。基本的には一般不妊治療からはじめグレードを上げてゆきます。
一般治療による妊娠率は約43%と比較的良いので、いきなり高度生殖医療から入らず、最初1~2年は一般不妊治療を行います。しかし2年以後はそれまでの妊娠率上昇が遅くなりますのでできるだけ早く生殖補助医療に移るのが適当かと思います(図6)
当院では1~2年の間に性交指導よりはじめ、クロミッド療法、黄体機能賦活療法、ゴナドトロピン療法
(hMG-hCG療法)、人工授精(濃縮、洗浄、卵管内)、卵管通水法
などを計画的に積み上げています。
これらで半数近くの人が妊娠に至ります。2年で妊娠に至らなければ、体外受精を含めた高度生殖医療をおこなっている適切な施設を紹介しています。

一般不妊治療

性交指導

一般妊娠では日にち単位の性交指導でよいと考えら得ています。月経順調なかたは過去の基礎体温表で排卵日を推定し、性交を持つのがよいでしょう。月経が不順の方では排卵の予測、あるいは薬物による調整が必要です。数日単位での予測は超音波検査で卵胞の長径を測定するのがよいでしょう。一般に卵胞は15ミリを越えると1日3mmずつ大きくなり、25~8mm前後で排卵することがわかっています。直前ですとLHサージを尿で感知する方法があります。一般にLHサージから排卵まで24~36時間といわれています。

クロミッド療法

軽い排卵障害排卵日調整黄体機能不全のもちいられる軽い排卵誘発です。注射による排卵誘発とは対象患者も副作用も全く異なります。クロミッドはエストロゲンの拮抗剤で、通常月経5日目から5日間クロミッドを1錠か2錠服用します。少し卵巣機能が落ちているかたではこの間に脳内ではエストロゲンが少ないと感知し、下垂体のホルモン分泌が刺激され、卵胞発育が底上げされて、患者自身で排卵させるホルモンが出るようにする方法です。ホルモンが軽い無月経患者の場合排卵する率70~80%、妊娠率40~50%と簡便な割には有効な方法です。
 

黄体機能賦活療法

黄体期能不全に対する治療あるいは賦活して着床条件を挙げる治療です。一般に黄体ホルモン投与とhCG注射に分けられます。黄体ホルモン投与では高温相移行2日を確認の後黄体ホルモン(デュファストン2錠分2)14日間、または黄体ホルモン注射隔日行います。hCG注射はhCGにより黄体機能を賦活する方法です。hCG5000黄体期確認後1回、1週間後1回行います。hCG3000の場合は3日おきに行います。hCGは排卵直前に注射すると36時間後に排卵しますので排卵調整にも使われます。hCGには排卵させる機能と黄体を賦活する機能の両方の機能があります。

ゴナドトロピン療法(hMG-hCG療法)

いわゆる排卵誘発法です。比較的重唱の排卵障害やクロミッド無効の排卵障害に対する治療です。月経開始2~5日目から卵胞を発育させるホルモン(HMG,またはFSH)を毎日あるいは隔日注射し、卵胞発育を観察します。卵胞長径が18~20mmになった時点で排卵させるホルモンhCGを注射します。人為的卵胞発育刺激なので多数の卵胞が発育しますので副作用として卵巣過剰刺激症候群、多胎妊娠が起こる場合があります。

人工授精

頸管粘液分泌不良、精子―性管粘液適合検査不良、精子減少症の場合に行われます。排卵日に精子を採精して静置、洗浄、濃縮を行い、子宮の中に注入する方法です。精液を持参していただき洗浄、濃縮を行いますので子宮内注入までに20~30分かかります。有用な方法ですが6回以降は成績が上がりませんので漫然と回数を重ねるよりは治療レベルを上げてゆく必要があります。人工授精は不妊症治療として重要であるのに保険診療となっていない点が疑問です。少子化の現在、早く保険適応がなされるよう働きかけをしなければなりません。

卵管通水法

軽い卵管狭窄に行います。正常の場合でも卵管内に小さな障害物がある場合があり、行われることがあります。手技は卵管通気検査と同様ですが短時間で終わり、生理食塩水を使います。

生殖補助医療


▲図7
体外受精ー胚移植(IVF-ET)


▲図8
顕微受精の方法

生殖補助医療を行う施設は多くの場合、施設がその目的に特化しており、一般不妊治療を終えた施設から紹介される場合が多くなります。これらの施設では医師以外に卵や精子の細胞生物学的扱いに精通した専門技術者(多くは生物学、農学部出身者や検査技師など)、看護師、カウンセラーなどが部門部門を担当しています。まず一般的不妊治療を十分行っているか、検討したうえで適応患者か否かを過去の成績、倫理的側面、心身医学的側面から再評価し説明を行った上で治療を開始します。現時点では保険がききませんので経済的負担が大きい治療(1回20~40万円)です。成功率は全国平均で20%前後です。

IVF-ET (in vitro fertilization and embryo transfer:体外受精―胚移植)

卵胞発育した時点で膣内より超音波ガイドで卵胞を穿刺吸引し、成熟した卵を得る。同時に採精した精子を加え培養し(媒精)、受精卵の発育を評価し、1~2日後、子宮内に戻します(図7)。残りの卵は凍結保存して後の周期に子宮内にもどすことが可能です。基本的には複数の卵胞から得る必要があるのでゴナドトロピン療法による排卵誘発をおこなう。自身によるLHサージを調節するためにGnRHアゴニストを用いる。子宮内に戻す受精卵は初期には成績が低かったので複数個戻していたが成功率の上昇に伴って逆に多胎妊娠が増加しており、1~2個にとどめることが多い。したがって排卵誘発を行わない場合もある。IVF-ETを行う症例は精子減少症のうち500万/ml以上または運動精子350万以上が条件でそれ以下は顕微授精の対象となります。

GIFT(Gamate intrafallopian transfer:配偶子卵管内移植)

排卵誘発を行うか、自然発育を観察し、卵胞が発育した時点で腹腔鏡で卵巣より直接採卵し、採精した精子と一緒に卵管内へ注入する方法です。体外受精に比べてより生理的な方法で、以前は体外受精より成績がよかったので行われることがありましたが、体外受精の成績向上により、最近は行われることが少なくなってきました。

顕微授精

一匹の精子と一個の卵があれば成立する究極の治療です。体外受精と同じように卵を採取し顕微鏡の下で一匹の精子を注入します。従来いろんな方法がなされましたが、現在は細いガラス針を使って卵細胞質に精子を一匹注入する方法(卵細胞室内精子注入法::ICSI)が行われます(図8)

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