▲図1
月経はどのようにして起こるか
女性の性機能の周期的変化は脳下垂体のLH(黄体化ホルモン)、FSH(卵胞刺激ホルモン)というホルモンによって調節されています。FSHが卵巣を刺激し、卵胞が十分発育し、エストロゲン(エストラジオール)というホルモンが十分になるとLHが多量に分泌されます(LHサージ)。その結果、排卵がおこり、かつ卵の抜けたあとの卵胞は黄体を形成します。黄体からはエストラジオールとともにプロゲステロンが分泌されます。子宮内膜は卵巣のホルモンによって周期的に調節されています。月経の前半(卵胞期)ではエストロゲン(エストラジオール)というホルモンにより内膜は増殖し、厚さがまします。
排卵がおこれば黄体から出るエストロゲンとプロゲステロンというホルモンで内膜の性状が変化し、卵が着床しやすくなるようになっています。黄体の寿命は2週間ですので妊娠が成立しなければホルモンは低下し、それによって支えられていた子宮内膜は剥脱し、月経として排出され、月経後新しい周期が始まります(図1)。妊娠に至り、着床が成立すると、hCGというホルモンが出て黄体が維持されるので月経は起こりません。
月経周期とは、月経が始まった日を1日目とします。そして、次の月経が始まる前日までを一周期として考えます。一般的な月経周期は28日といわれています。周期は、ストレスや体調不良などにも左右されやすいといわれています。日本人における月経周期は25日~38日周期、変動6日以内、出血持続3~7日、経血量20~140mが正常域といわれています。月経不順の原因としては、ストレスや睡眠不足、急な体重の変化、ホルモン分泌異常などがあげられます。無月経とは18歳になっても月経が来ないかまたは過去あった月経が3ヶ月以上来ないかの場合をいいます。前者は原発無月経で生まれつきの解剖学的異常や、発生異常による場合が多く見られます。後者は続発無月経といい月経理不順と似通った原因で起こります。
各種月経異常
▲図2
月経の人工移動
原発無月経
満18歳になっても初経がない場合をいいます。内分泌学的異常のほかに生まれつきの解剖学的異常、酵素異常、染色体異常などが含まれます。
続発無月経
初経の後、過去にあった月経が3ヶ月以上無いものを言います。妊娠を除外すれば体重減少増加、ストレス、運動あるいは乳汁漏出性、甲状腺機能障害、糖尿病でも見られます。
頻発月経
月経周期が異常に短縮したもの。一般には月経周期が24日以内で繰り返すものをいいます。
希発月経
月経の頻度が異常に少ないもの。ふつう周期が39日以上3ヶ月以内のものをいいます。
過多月経
月経の出血量が異常に多いもの。子宮筋腫、子宮腺筋症、卵巣機能不全症(思春期、更年期)などで見られます。鉄欠乏性貧血を呈し、鉄材投与が必要な場合もあります。子宮筋腫、至急腺筋症などの器質的疾患治療が必要な場合もあります。歯肉出血などほかの出血傾向があれば血液凝固異常に注意しましょう。ホルモン剤による月経調整が有効です。
過少月経
月経の量が異常に少ないものをいいます。量20~30mll以下、3日以内の場合が多く、黄体機能不全、無排周期症、Asherman syndromeなどが疑われます。
月経前症候群(PMS)
月経前3~10日黄体期のつづく精神的あるいは身体的症状をいいます。多くの場合、月経開始とともに消失します。症状はいらいら、のぼせ、下腹部膨隆感、下腹痛、腰痛、頭重患、頭痛、乳房痛、憂鬱など多彩です。比較的軽症で自覚があり、社会生活上QOLに影響が軽ければ月経前の変調として対症療法、ホルモン剤、鎮痛剤、安定剤、漢方薬などで対応します。中等症以上の場合で社会生活上問題となれば治療に入ります。
月経前不快気分障害
発症は上記に同じですが、焦燥感、不安感、脅迫感、自己喪失感、落涙など精神症状が強く仕事、家庭生活上、あるいは人間関係上、日常生活に支障をきたすものをいいます。最近の研究では本疾患はホルモンの異常ではなく、黄体ホルモンに対する感受性の問題で、黄体ホルモンによって誘導される周期的うつ状態と考えられています。治療としては規則正しい生活、食事、週-3回の定期的運動、コーヒー、タバコを控える。責任のあることから少し距離をおくなどの生活指導とともに、SSEI(セロトニン選択的取り込み阻害剤)などの軽い抗うつ剤を併用するのが有効であるとされています。
月経日の人工移動
仕事、旅行、スポーツ、受験その他の理由により月経を移動させる必要がある場合、性ホルモンを用いて調節できます。用いるホルモンは卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の合剤、いわゆる中用量ピルです。月経移動の方法は月経を遅らせる方法と月経を早める方法であります。いずれの場合も最近の月経開始日、最近の月経周期、次回月経の予定、月経をさけたい時期、来院した月経周日に関する問診から適切な服用開始時期と日数を算出します。月経を遅らせる方法は黄体期を延長させる方法で予定月経の少なくとも3日前(できれば5日前)から必要な期間服用します。内服を終了すると2~5日程度で月経(消退出血)が起こり、次の月経はその出血を月経開始として通常通り1ヶ月後に起こります。月経を早める方法は排卵を抑制する方法で月経の開始5日目までに来院指導を受けることが必要です。月経周日5日目より開始し、月経を来させたい日の3~5日前まで服用します(図2)。卵胞発育が始まってしまっている場合には失敗する場合もあるので確実投与法が守れる場合にのみ選択します。