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婦人科

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子宮筋腫


▲図1
子宮筋腫発生部位と症状

子宮筋腫は30~40代女性に最も好発に発症する子宮の良性腫瘍です。 30~50歳女性の30%はもっているといわれます。多くは複数個存在します。子宮の体部、頸部、腟部にそれぞれ発生しますが体部筋腫が90%以上を占めます。子宮筋層に発生した筋腫はその後の発育方向により漿膜下、壁内(筋層内)、粘膜下筋腫に分類されます。腟内への筋腫脱出もあり、筋腫分娩といわれます。部位と大きさによって症状は多彩ですが最も多く見られるのは過多月経です(図1)。

筋腫はエストロゲンの作用により徐々に発育し、閉経以後縮小します。一般に筋腫の肉腫への変化は0.1%以下です。そしてそのほとんどは摘出後偶然発見されるのです。

従って筋腫の存在で肉腫への変化を理由に治療法選択してはいけないとされています。ただし、明らかに子宮筋腫では説明できない腫瘤、60歳以後になって急速に増大する子宮の腫瘤がある場合は疑ってよいでしょう。子宮肉腫の20歳以上の婦人における頻度は10万人当たり1.7人です。1年間に100人に1人交通事故にあい、1万人に1人なくなります。したがって、それ以下のまれな疾患ということになります。子宮筋腫があると不妊になるといわれますが実際に子宮筋腫が不妊症の主原因である確率はおそらく全体の3%程度といわれています。筋腫があるために流産や合併症の可能性はありますが、多くの患者は偶発症無く妊娠分娩を経過します。筋腫合併患者の妊娠合併症発現頻度は10%程度です。妊娠中の子宮筋腫の90%は大きさに変化はないといわれています。子宮筋腫は頻度が高く、生殖年齢の間継続し、かつ、良性であるために治療目的とその特徴により治療選択が多彩であり、本人の現在および将来的QOL改善を目的に治療選択するのがよいでしょう。治療は症状(過多月経、貧血、消化器、尿路症状、圧迫)の程度、予測される持続(閉経までの年)、QOL障害の程度を考慮し、多くの治療から選択します。内科的治療法外科的治療法があります。

卵巣機能を一時的に低下させることを目的としたGnRHアゴニスト(偽閉経療法)投与、過多月経月経痛を軽快させる低用量ピルがあります。GnRHアゴニスト療法は強すぎると更年期症状骨量が低下しますし、弱ければ不正出血がおこります。6ヶ月以上継続するのは好ましくありません。また中止すると閉経でない限り3ヶ月で元の大きさに戻るといわれます。一方ピルは過多月経月経痛を改善し、長く続けることが可能ですが、根本的治療にはなりません。外科的治療は筋腫の場所、大きさにより多くの中からの選択が可能です。子宮筋腫核出術妊孕性温存のために選択されます。ただし、将来的に再発の可能性は残ってきます。症状の永続的解決のためにもっとも確実なのは子宮全摘術です。将来的に子宮癌回避が可能です。いずれの場合も開腹、腹腔鏡の両アプローチがあります。一方、粘膜下に小さな筋腫があり、月経過多が主症状の場合は、子宮鏡下手術を行います。

その他、放射線学的に子宮動脈塞栓術などが欧米で行われ、日本でも各地でおこなわれています。数日の入院ですみ、安定した方法ですが今のところ、妊娠希望の患者には向いていません。集束超音波による筋腫破砕に関しては日本でも一部で行われていますし、症状の一部改善は見られるようですが、欧米においても評価が定まっていません。

子宮内膜症


▲図2
子宮内膜症の好発部位

子宮内膜症という病気は、子宮内膜様組織が本来の正常の位置つまり子宮腔内面以外の組織や臓器などに、異所性存在増生するために生じる病態をいいます。子宮筋層にできる子宮腺筋症も本質的には同類といってよいでしょう。好発部位卵巣ダグラス窩直腸結腸表面です。症状は初期には月経痛性交痛、進行すると持続的下腹痛となります。病状が進行して癒着ができると不妊症の原因になる場合があります(図2)。

子宮内膜症は20代始めより発症し、発症ピークは30代、以後漸減します。一方、子宮腺筋症は30歳過ぎより増加、ピークは40代です。子宮内膜症、子宮腺筋症、いずれも悪性ではありませんが、放置すると進行し、不妊症の原因となったり、QOLの障害になったりする厄介な病気です。原因ははっきりとしてはいませんが、何らかの形で女性ホルモン、環境ホルモン、ライフスタイル、多忙な仕事などの中に子宮内膜症に影響を与えている要因があると考えられています。どのように治療するかは症状の程度診断の精度、その人の年齢、子供が今ほしいか(挙児希望の有無)、将来はほしいと思っているか、その症状がそのひとのQOL(生活の質つまり、日常生活における苦痛、仕事への影響、人間関係への影響、心理的影響など)にどの程度影響を与えているかによって異なります。また治療効果年数の設定を短期中期、あるいは長期的な治療を希望するかによっても異なります。
治療では穏やかな方法として症状軽減のために低用量ピルプロゲステロン製剤による排卵抑制、黄体ホルモン漸増療法、中用量ピルなどがあります。特に若年者の場合、腹腔鏡で確認するほどではないあいまいな診断の場合は低用量ピルの副効用を用いるのがもっとも有効です。
その他薬物療法としてはGnRHアゴニスト(リュープリン、ゾラデックス、スプレキュア、ナサニール)により閉経状態(エストロゲン低下)を作って治療する方法、ダナゾール(男性ホルモン誘導体)による子宮内膜萎縮を目的とした治療があります。GnRHアゴニストは作用が弱いと不正出血、強いと更年期症状骨塩量低下(骨粗鬆症関連)の症状が出ます。ダナゾールはうまく使えばよいですが女性にとって悩ましいにきび、肥満などの男性ホルモン作用が少し出ます。日本ではGnRHアゴニストによる薬物治療が汎用されていますが、米国ではピル(低用量、中用量)あるいはプロゲステロン製剤が対費用効果がよいとされます。
外科的治療としては腹腔鏡による病変除去が推奨されます。病変が広範囲に広がっていたり、悪性が否定できないなど微妙な場合は開腹して直視下で手術を行います。閉経年齢が近く根本的治療を目指す人は卵巣摘出、子宮摘出を行う場合もあります。子宮内膜症は悪性ではありませんが、その治療法は各種治療の中から納得した上で、選ばなければなりません。
たとえば若年で、腹腔供するほどではなく、すぐの妊娠は希望しないが将来の妊孕性確保を希望する場合、低用量ピル鎮痛剤を用います。腹腔鏡処置までして診断がついている場合にはプロゲステロン製剤による漸増療法か周期的投与を選択します。挙児希望のある場合には妊娠を目標とした治療を優先します。子宮内膜症では不妊症になる可能性はありますが、妊娠することは軽症の子宮内膜症の最もよい治療となります。
一方、進行した子宮内膜症で腹腔鏡の手術を受けてなお病変が残ったとき、術後薬物療法を行うのがよいかすぐ不妊症の治療をするかは迷うところです。しかし、結論は出ており、追加療法としての薬物療法はメリットが少なく、すぐに不妊治療優先で治療法を設定し、人工授精、排卵誘発などの治療から体外受精などの治療まで進めてゆくのがよいとされています。

婦人科腫瘍


▲図3
部位別悪性新生物死亡率の年次別推移

女性特有の腫瘍には乳がん、子宮がん(子宮頸がん、子宮体がん)、卵巣がんがあります。それぞれの年度別死亡率を図に示しました(図3)。
近年、乳がん死亡率は上昇、子宮がん死亡率は低下後横ばい(子宮頸がん死亡率は低下)(子宮体がん死亡率は上昇)、卵巣がん死亡率は上昇子宮がんに匹敵しているのがわかります。
予防や早期発見のために子宮頸がん検査、乳がん検査(マンモグラフィーと超音波検査)を定期的に、出血などの症状のあるときは子宮体がん、下腹痛、腹部膨満のあるときは卵巣がんの検査(超音波検査)を受けましょう。

多くの病院では良性腫瘍・初期がんについては、薬剤治療やできるだけ必要最低限に縮小した術式による手術をめざし、子宮や卵巣などの温存を心がけています。
一方、進行がんについては、根治術を中心に新しい治療法を駆使し、さまざまな方法を取り入れ組み合わせながら、集学的に治療を行います。治療法に関しては、十分な説明と患者様の同意が必要です。そのためには十分な話し合いが必要ですし、患者様の決断も必要です。その点でセカンドオピニオンをご希望されるかたもいらっしゃるかと思います。
いままでに多くの方のセカンドオピニオンを述べさせていただいています。ご希望があればご相談ください。

セカンドオピニオンとは?

セカンドオピニオンとは、手術をしなければならない時、あるいは複数の治療法の中での選択を迫られたとき、重大な決断をしなければならないときに、他の専門医にも相談し、意見を聞きたいと考えることがあると思います。そこで、あなたにとって最善と考えられる治療を、患者と主治医で判断するため、主治医以外の医師の意見を聞くこと。それがセカンドオピニオンといいます。

主な子宮がんについて

子宮頸がん


▲図4
子宮頸がんの発生部位

子宮頸がんは多くは扁平上皮がんに属し、一般に性生活と関係が深く、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染と関連しています。35~50才女性に多く、子宮がんの約7割を占めます。症状は性交後出血、あるいは不正性器出血です。しかし、それでは遅く、がんが見つかった時点で子宮をとらなければなりません。子宮頸がんについては検診に長い歴史があり、検診を受けていればがんになる10年前に前がん病変で発見が可能です。前がん病変では子宮頸部の一部切除(円錐切除)またはレーザー焼却ですみ、妊娠、分娩が可能です。

つまり子宮頸がん検診の目的はいまや発見ではなく早期に見つけて予防することにあります。日本でもやっと20歳を過ぎたら、子宮頸癌の検診をする制度になってきています。欧米では10代でも性生活が始まったら検診を開始、20歳では性生活に関係なく(子宮頸がんには性生活と関係のない頸部腺がんがある)検診を受けましょうとなっています。米国では18~24歳の婦人の61%が癌検診で子宮頸がんを予防することができると思っています。米国では癌検診により子宮頸癌による死亡は死亡原因の1位から8位に落ちました。しかし、米国といえども年配の人への啓発は進んでいません。残念なことに子宮頸癌の25%、全癌死亡の41%が65歳以上の女性で起こっています。日本では子宮頸癌の検診率がいまだに20%に達せず、何年も検診を受けていない人がいることはいささか心もとないですね。
子宮頸がんの治療は基本的に手術療法放射線療法があります。基本的に両者の治療成績はほぼ同じといってよいでしょう。欧米では放射線療法のみを行っている国もあります。日本では伝統的に手術療法が得意で、ほんの少し成績がよいので手術できれば手術を選択する施設が多いですが、手術できないからといってがっかりする必要はありません。日本では0期(上皮内癌)は円錐切除術、3日入院、I・II期は手術療法(広汎子宮全摘)または放射線療法3~4週間入院、II~IV期は放射線療法、6週間入院、遠隔転移がある場合は化学療法を選択します。ただし、手術を行っても術後の病理検査結果により放射線療法追加することもあります。広汎子宮全摘術は以前は出血量も多く、輸血を必要とし、下腿浮腫排尿障害など多くの合併症が出ていました。今は手術の改良により出血量はほとんど自己血貯血の範囲内ですむか、輸血がいらないかですし、下腿、排尿障害は少なくなってきました。一方、放射線治療は装置を膣内に入れる腔内照射外照射と組み合わせて行います。短期的には消耗感、腹部不快感、皮膚灼熱感、中期的には血尿血便、長期的には婁孔ができたりすることもありましたが、線量モニターが行われる最近ではあまりありません。

子宮頸癌ワクチン

国内で年間約3,500人の女性の死因となっている子宮頸(けい)がんを予防するワクチンが、12月21日承認されました。頸がんの大部分はヒトパピローマウイルス(HPV)の持続的が原因です。HPV特別な人が感染するのではなく、性交渉の経験のある人なら誰でもHPVに感染する可能性があります。今回認可されたワクチンでは感染前の接種によって、頸がんの原因の約7割を占めるHPVの感染予防が期待できます。女性にとっては朗報です。子宮頸癌は30代後半から40代に多いですが、最近は感染原因である性交渉の低年齢化などが影響し、20~30代の若い患者が増えています。

子宮頸癌はワクチンによる予防手段があるため「予防できる唯一のがん」といわれ、有効性は10~20年継続するとされています。かりに12歳の女児全員が接種すれば、頸癌にかかる人を73.1%減らせる。死亡者も73.2%減ると推計されます。製品としては、今回、承認された英系製薬会社、グラクソ・スミスクライン社の「サーバリックス」と、米製薬会社、メルク社の「ガーダシル」(承認申請中)の2種類があります。

投与年齢については多くの国では12歳を中心に9~14歳で接種が開始され、学校や医療機関で公費助成で接種が行われています。26歳までの女性が対象ですが、それ以降の年齢でも有効とされています。ただ、若年投与の場合、思春期を迎える女児が女性の成長と健康について、きちんと理解できるような配慮が求められると思われます。
なお検診を受けたからといって定期健診がいらないわけではありません。引き続きかかりつけの先生で検診を受けてください。
投与は3回、当月、1ヶ月後、6ヶ月後です。
接種希望の方はあらかじめ事前説明をいたしますので、予約して御来院ください。

子宮体がん


▲図5
子宮体がんの発生部位

近年増加している子宮体部にできるがんです(図5)。欧米型の生活に根ざした疾患で50~60歳の女性に多い。未経妊、肥満、糖尿病に多いといわれます。エストロゲンにより、増加し、プロゲステロン製剤で減少します。月経不順、未産婦に多い点からエストロゲンのみの作用期間に関係しているといわれます。乳癌治療(ノルバデックス服用)で2.3倍に増加します。子宮がんの約3割を占めます。症状は月経の時期不定の性器出血、閉経以後の不正出血、褐色帯下が多いです。
子宮体癌の検査痛みを伴うので症状がない人にむやみに行う検査ではありません。

子宮の中に消息子を入れ、くるくると回して細胞を取ってきます。お産の経験のない人は痛みが強いですが、皮肉なことに未産婦に多い病気なのです。日本ではリスクのある患者は積極的に子宮体がんの検査を受けていますが、医療費が高く、子宮体がんの診断精度が高くない米国では、対費用効果は低いと判断されています。痛みを回避する便法として超音波検査を行うことがあります。一般に無症状の場合、経腟超音波検査で子宮内膜の厚さが5mm以下の女性に子宮体がんはほとんどありません。もっとも、米国では超音波検査は数万円もしますから理由がないとしてくれません。

子宮体がんの治療は手術療法、放射線療法、化学療法があります。頸がんほど放射線に感受性が高くないので、できれば手術療法が主体になります。術式は細胞の悪性度、子宮壁への浸潤度、リンパ節転移の有無によって異なりますが、基本的には子宮全摘術、両側附属器(卵巣、卵管)摘出術、骨盤リンパ節廓清術、傍大動脈リンパ節廓清術を行います。卵巣を摘出するのは転移の頻度が高いからです。術後の病理検査の結果により放射線療法、化学療法の中で追加療法を選択します。子宮体がんの化学療法については一定の見解を見ませんが、性格のよく似た卵巣がんに準じてカルボプラチン、タキサン系の薬剤を使います。病変が初期で、かつ細胞の悪性度が低い場合、一定の条件を満たせば、妊孕性温存のためにプロゲステロン製剤大量療法を行うこともあります。治療後のプロゲステロン療法について有効だという報告はありません。ただし、今後はプロゲステロン受容体の有無による評価が必要でしょう。

卵巣がん


▲図6
卵巣がんの発生部位


▲図7
卵巣の良性腫瘍

卵巣がんは、別名、沈黙の腫瘍といわれます。卵巣はお腹と背中のちょうど真ん中にあり、大きくなってもなかなか症状として出ません腹部膨満腹痛などが出たときにはだいぶ進んでいる場合もあります。またリンパ節転移の頻度も高く、また破裂すると腹腔内にがん細胞が播種され進展が早くなります。そのため、死亡率が高く、がんの中でも非常にタチの悪いものといえます。年一回の検診では不十分なので検診も有効とはいえません。

細胞の性格も悪性度も多様ですが、嚢胞性の腫瘍が多いです。発見は超音波検査が簡便で有効ですが、嚢胞内の液の性状、浸潤の解析にはMRIが有効です。転移の検索にはCTを行います。腫瘍マーカー(CA125、CA19-9、SCC、CEAなど)は高ければ悪性を疑いますが、低いからといって安心はできません。しかし、術後の経過観察中の再発の早期発見には有効でしょう。卵巣は性状でも大きさは変化しますし、嚢胞性の良性腫瘍もあるので初期では悪性の診断が難しい場合もあります。(図7

また卵巣がんは嚢胞の中にがんがあることが多いので、あらかじめ調べることはできません。ある程度類推して手術を決定するしかありません。以下の基準で手術するかどうか決定されます。6~8週間隔で検査して5cm以上の縮小しない嚢腫がある場合、充実性の病変がある場合、壁に乳頭状増殖病変の見られる卵巣嚢腫、直径10cm以上の附属器腫瘤、腹水の存在、腫瘤触知(初経前、閉経後)、茎捻転又は破裂などです。
治療はできるだけ多くの病変を手術的に取り除くのが原則です。多くの場合、単純子宮全摘術、両側附属器摘出術、大網切除術(転移しやすい場所)、骨盤リンパ節廓清術、傍大動脈リンパ節廓清術などを行います。若年者で組織型が微妙な場合は患側卵巣切除にとどめ永久標本で確定してから再手術を行う場合もあります。若年者で卵巣温存を望み、初期であり、細胞の悪性度が低い場合には患側の附属器切除とリンパ廓清で経過観察する場合もあります。術後病理検査の結果により、化学療法を追加する場合があります。卵巣がんは他のがんに比べて、進行した場合でも再発の場合でも化学療法が有効なことが多いので粘り強く治療しましょう。

更年期障害と骨祖しょう症


▲図8
各種症状とホルモン関連性


▲図9
婦人の加齢に伴う
エストロゲン欠乏症状の出現

更年期障害とは、「更年期におこるもの諸症状で、だいたい40歳代中頃から50歳代中頃までにおこります。主な症状として、ほてり・のぼせ・動悸・異常な発汗・冷えなどの血管運動神経系症状、しびれ・腰痛・肩こり・関節痛などの身体症状、イライラ・不安・不眠、うつ状態などの精神神経症状があります。一般的な診察などでは異常が見つからない自律神経失調症を中心とした不定な症状を訴える状態とされています。いくつかは女性ホルモンが低下したことによる直接作用、またいくつかのものは更年期を契機に内在する要因で発症するものもあります。更年期障害と症状が似ているのが更年期に発症したうつ状態ですが症状をよく分析すれば診断はそれほど難しくなく、それぞれに対応した治療法が選択されるべきでしょう(図8)。更年期障害は一般女性にある程度の頻度で発症しますが、そのために不眠、注意力散漫、記憶障害などが起こって生活の質が維持できない場合には治療の対象となります。運動やレクリエーションを生活に取り入れ、前向きの生活を送るようにしましょう。治療は欧米では不足したホルモンを補充(ホルモン補充療法)して症状を軽くしながら、長い期間で調整してゆく方法が一般的です。ホルモン補充療法にはいろんな方法がありますが、基本的には子宮のある患者は子宮体癌のリスクを下げるためにエストロゲン-プロゲステロン製剤を用います。子宮摘出後状態の患者はエストロゲンの補充のみで充分です。日本および中国ではその他に漢方療法が薦められています。乳がん患者でホルモン補充療法に抵抗のある場合にはSSRI(抗うつ剤)の使用が有効であることが米国の論文で出ています。子宮体がん術後患者ではエストロゲンは増悪因子であると考えられていますが、卵巣も摘出しているので若年患者の場合、ホルモン補充療法の是非が問題になります。実際には初期がんの場合でも進行がんでも予後に影響を与えないことがわかっています。
その他、女性ホルモン低下の影響は年を追ってさまざまな臓器で認められ、老人性膣炎、膣乾燥感、頻尿、尿失禁、高脂血症、動脈硬化、高血圧、骨粗鬆症などが出てきます(図9)。これらのことを念頭に置きながら節目に当たって閉経以後の健康管理を再構成することが更年期以後の女性の健康を考えるにあたって重要であると思われます。

骨粗鬆症


▲図10
女性の一生と骨塩量


▲図11
どんなひとが
骨粗鬆症になりやすいか


▲図12
骨粗鬆症における治療選択

女性は閉経を機に女性ホルモンの量の減少と共に、年を追うごとに骨量が減少していきます。女性ホルモンのひとつであるエストロゲンには、骨をつくり、骨からカルシウムが過剰に溶け出すのを抑える働きがあり、更年期に入って卵巣の機能が衰えると、このエストロゲンの分泌量が急速に減少します。よって、更年期を迎えた女性は、骨量が急激に低下してしまい、骨粗鬆症にかかる危険性が高まるのです図10)。骨粗鬆症にかかる危険のある人は(図11)のような特徴を持った方です。更年期以後の女性は市民検診などで骨粗鬆症の検査を積極的に受け骨塩量の低い人は骨折予防の治療を早期に始めることが望まれます。また女性は日ごろから生活習慣の中に骨粗鬆症にならないように十分なカルシウムを摂取する(できれば1日1600㎎)、適度の運動を行うことに務めるべきと思われます。更年期以後の女性はこれらのことを踏まえて、女性ホルモン欠乏の影響をできるだけ少なくして新たな人生の組み立ては考えることが必要です。

骨塩量が基準値より低く骨粗鬆症の基準に達すれば、早めに治療を開始しましょう。治療は生活の質改善とともに薬物治療が主体になります。以前はもっとも有効な治療薬は女性ホルモンでしたが、現在は女性ホルモン剤、ビスフォスフォネート製剤、ラロキシフェンがあります。女性ホルモン剤としてはプレマリンが有名ですが弱いエストロゲンのエストリオール、貼付剤のエストラダーム、エストラーナ、フェミエストなどがあります。子宮がある場合にはプロゲステロン製剤と併用することはホルモン補充療法と同じです。ビスフォスフォネート製剤としてはボナロン(フォサマック)、ベネット(アクトネル)などがあります(カッコは会社による製品名の違いを示す)。ラロキシフェンは製品名エビスタといいます。エストロゲン作用の修飾物質です。エストロゲン作用のうちよい作用の部分を持っている物質と考えてよいでしょう。ただし、血栓症に関してはエストロゲン同様の作用を持っています。だいたいプレマリンとビスフォスフォネートは骨塩量増加に関してはほぼ同等、違いは骨粗鬆症以外にエストロゲン効果(副作用もある)をあわせて希望するかです。ビスフォスフォネートには服用時の制限があり、服用が困難な人がいます。最近1週間に1回の投薬ですむ徐放剤が開発されました。ラロキシフェンは骨塩量増加に関してはややほかの2者に譲りますが、骨折予防に関しては同等の効果といってよいでしょう。ラロキシフェンに期待できるのは乳がん防止作用、子宮体がん抑制作用(副作用もあるが)をあわせて希望するか否かです。骨粗鬆症にどの薬剤を使うかは患者および医師がどこまでの範囲の効果を狙うかによって処方選択が異なってきます。以上をまとめると(図12)に様になります。

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