▲図3
部位別悪性新生物死亡率の年次別推移
女性特有の腫瘍には乳がん、子宮がん(子宮頸がん、子宮体がん)、卵巣がんがあります。それぞれの年度別死亡率を図に示しました(図3)。
近年、乳がん死亡率は上昇、子宮がん死亡率は低下後横ばい(子宮頸がん死亡率は低下)(子宮体がん死亡率は上昇)、卵巣がん死亡率は上昇子宮がんに匹敵しているのがわかります。
予防や早期発見のために子宮頸がん検査、乳がん検査(マンモグラフィーと超音波検査)を定期的に、出血などの症状のあるときは子宮体がん、下腹痛、腹部膨満のあるときは卵巣がんの検査(超音波検査)を受けましょう。
多くの病院では良性腫瘍・初期がんについては、薬剤治療やできるだけ必要最低限に縮小した術式による手術をめざし、子宮や卵巣などの温存を心がけています。
一方、進行がんについては、根治術を中心に新しい治療法を駆使し、さまざまな方法を取り入れ組み合わせながら、集学的に治療を行います。治療法に関しては、十分な説明と患者様の同意が必要です。そのためには十分な話し合いが必要ですし、患者様の決断も必要です。その点でセカンドオピニオンをご希望されるかたもいらっしゃるかと思います。
いままでに多くの方のセカンドオピニオンを述べさせていただいています。ご希望があればご相談ください。
セカンドオピニオンとは?
セカンドオピニオンとは、手術をしなければならない時、あるいは複数の治療法の中での選択を迫られたとき、重大な決断をしなければならないときに、他の専門医にも相談し、意見を聞きたいと考えることがあると思います。そこで、あなたにとって最善と考えられる治療を、患者と主治医で判断するため、主治医以外の医師の意見を聞くこと。それがセカンドオピニオンといいます。
主な子宮がんについて
子宮頸がん
▲図4
子宮頸がんの発生部位
子宮頸がんは多くは扁平上皮がんに属し、一般に性生活と関係が深く、HPV(ヒトパピローマウイルス)感染と関連しています。35~50才女性に多く、子宮がんの約7割を占めます。症状は性交後出血、あるいは不正性器出血です。しかし、それでは遅く、がんが見つかった時点で子宮をとらなければなりません。子宮頸がんについては検診に長い歴史があり、検診を受けていればがんになる10年前に前がん病変で発見が可能です。前がん病変では子宮頸部の一部切除(円錐切除)またはレーザー焼却ですみ、妊娠、分娩が可能です。
つまり子宮頸がん検診の目的はいまや発見ではなく早期に見つけて予防することにあります。日本でもやっと20歳を過ぎたら、子宮頸癌の検診をする制度になってきています。欧米では10代でも性生活が始まったら検診を開始、20歳では性生活に関係なく(子宮頸がんには性生活と関係のない頸部腺がんがある)検診を受けましょうとなっています。米国では18~24歳の婦人の61%が癌検診で子宮頸がんを予防することができると思っています。米国では癌検診により子宮頸癌による死亡は死亡原因の1位から8位に落ちました。しかし、米国といえども年配の人への啓発は進んでいません。残念なことに子宮頸癌の25%、全癌死亡の41%が65歳以上の女性で起こっています。日本では子宮頸癌の検診率がいまだに20%に達せず、何年も検診を受けていない人がいることはいささか心もとないですね。
子宮頸がんの治療は基本的に手術療法と放射線療法があります。基本的に両者の治療成績はほぼ同じといってよいでしょう。欧米では放射線療法のみを行っている国もあります。日本では伝統的に手術療法が得意で、ほんの少し成績がよいので手術できれば手術を選択する施設が多いですが、手術できないからといってがっかりする必要はありません。日本では0期(上皮内癌)は円錐切除術、3日入院、I・II期は手術療法(広汎子宮全摘)または放射線療法3~4週間入院、II~IV期は放射線療法、6週間入院、遠隔転移がある場合は化学療法を選択します。ただし、手術を行っても術後の病理検査結果により放射線療法追加することもあります。広汎子宮全摘術は以前は出血量も多く、輸血を必要とし、下腿浮腫や排尿障害など多くの合併症が出ていました。今は手術の改良により出血量はほとんど自己血貯血の範囲内ですむか、輸血がいらないかですし、下腿、排尿障害は少なくなってきました。一方、放射線治療は装置を膣内に入れる腔内照射と外照射と組み合わせて行います。短期的には消耗感、腹部不快感、皮膚灼熱感、中期的には血尿、血便、長期的には婁孔ができたりすることもありましたが、線量モニターが行われる最近ではあまりありません。
子宮頸癌ワクチン
国内で年間約3,500人の女性の死因となっている子宮頸(けい)がんを予防するワクチンが、12月21日承認されました。頸がんの大部分はヒトパピローマウイルス(HPV)の持続的が原因です。HPV特別な人が感染するのではなく、性交渉の経験のある人なら誰でもHPVに感染する可能性があります。今回認可されたワクチンでは感染前の接種によって、頸がんの原因の約7割を占めるHPVの感染予防が期待できます。女性にとっては朗報です。子宮頸癌は30代後半から40代に多いですが、最近は感染原因である性交渉の低年齢化などが影響し、20~30代の若い患者が増えています。
子宮頸癌はワクチンによる予防手段があるため「予防できる唯一のがん」といわれ、有効性は10~20年継続するとされています。かりに12歳の女児全員が接種すれば、頸癌にかかる人を73.1%減らせる。死亡者も73.2%減ると推計されます。製品としては、今回、承認された英系製薬会社、グラクソ・スミスクライン社の「サーバリックス」と、米製薬会社、メルク社の「ガーダシル」(承認申請中)の2種類があります。
投与年齢については多くの国では12歳を中心に9~14歳で接種が開始され、学校や医療機関で公費助成で接種が行われています。26歳までの女性が対象ですが、それ以降の年齢でも有効とされています。ただ、若年投与の場合、思春期を迎える女児が女性の成長と健康について、きちんと理解できるような配慮が求められると思われます。
なお検診を受けたからといって定期健診がいらないわけではありません。引き続きかかりつけの先生で検診を受けてください。
投与は3回、当月、1ヶ月後、6ヶ月後です。
接種希望の方はあらかじめ事前説明をいたしますので、予約して御来院ください。
子宮体がん
▲図5
子宮体がんの発生部位
近年増加している子宮体部にできるがんです(図5)。欧米型の生活に根ざした疾患で50~60歳の女性に多い。未経妊、肥満、糖尿病に多いといわれます。エストロゲンにより、増加し、プロゲステロン製剤で減少します。月経不順、未産婦に多い点からエストロゲンのみの作用期間に関係しているといわれます。乳癌治療(ノルバデックス服用)で2.3倍に増加します。子宮がんの約3割を占めます。症状は月経の時期不定の性器出血、閉経以後の不正出血、褐色帯下が多いです。
子宮体癌の検査は痛みを伴うので症状がない人にむやみに行う検査ではありません。
子宮の中に消息子を入れ、くるくると回して細胞を取ってきます。お産の経験のない人は痛みが強いですが、皮肉なことに未産婦に多い病気なのです。日本ではリスクのある患者は積極的に子宮体がんの検査を受けていますが、医療費が高く、子宮体がんの診断精度が高くない米国では、対費用効果は低いと判断されています。痛みを回避する便法として超音波検査を行うことがあります。一般に無症状の場合、経腟超音波検査で子宮内膜の厚さが5mm以下の女性に子宮体がんはほとんどありません。もっとも、米国では超音波検査は数万円もしますから理由がないとしてくれません。
子宮体がんの治療は手術療法、放射線療法、化学療法があります。頸がんほど放射線に感受性が高くないので、できれば手術療法が主体になります。術式は細胞の悪性度、子宮壁への浸潤度、リンパ節転移の有無によって異なりますが、基本的には子宮全摘術、両側附属器(卵巣、卵管)摘出術、骨盤リンパ節廓清術、傍大動脈リンパ節廓清術を行います。卵巣を摘出するのは転移の頻度が高いからです。術後の病理検査の結果により放射線療法、化学療法の中で追加療法を選択します。子宮体がんの化学療法については一定の見解を見ませんが、性格のよく似た卵巣がんに準じてカルボプラチン、タキサン系の薬剤を使います。病変が初期で、かつ細胞の悪性度が低い場合、一定の条件を満たせば、妊孕性温存のためにプロゲステロン製剤大量療法を行うこともあります。治療後のプロゲステロン療法について有効だという報告はありません。ただし、今後はプロゲステロン受容体の有無による評価が必要でしょう。
卵巣がん
▲図6
卵巣がんの発生部位
▲図7
卵巣の良性腫瘍
卵巣がんは、別名、沈黙の腫瘍といわれます。卵巣はお腹と背中のちょうど真ん中にあり、大きくなってもなかなか症状として出ません。腹部膨満や腹痛などが出たときにはだいぶ進んでいる場合もあります。またリンパ節転移の頻度も高く、また破裂すると腹腔内にがん細胞が播種され進展が早くなります。そのため、死亡率が高く、がんの中でも非常にタチの悪いものといえます。年一回の検診では不十分なので検診も有効とはいえません。
細胞の性格も悪性度も多様ですが、嚢胞性の腫瘍が多いです。発見は超音波検査が簡便で有効ですが、嚢胞内の液の性状、浸潤の解析にはMRIが有効です。転移の検索にはCTを行います。腫瘍マーカー(CA125、CA19-9、SCC、CEAなど)は高ければ悪性を疑いますが、低いからといって安心はできません。しかし、術後の経過観察中の再発の早期発見には有効でしょう。卵巣は性状でも大きさは変化しますし、嚢胞性の良性腫瘍もあるので初期では悪性の診断が難しい場合もあります。(図7)
また卵巣がんは嚢胞の中にがんがあることが多いので、あらかじめ調べることはできません。ある程度類推して手術を決定するしかありません。以下の基準で手術するかどうか決定されます。6~8週間隔で検査して5cm以上の縮小しない嚢腫がある場合、充実性の病変がある場合、壁に乳頭状増殖病変の見られる卵巣嚢腫、直径10cm以上の附属器腫瘤、腹水の存在、腫瘤触知(初経前、閉経後)、茎捻転又は破裂などです。
治療はできるだけ多くの病変を手術的に取り除くのが原則です。多くの場合、単純子宮全摘術、両側附属器摘出術、大網切除術(転移しやすい場所)、骨盤リンパ節廓清術、傍大動脈リンパ節廓清術などを行います。若年者で組織型が微妙な場合は患側卵巣切除にとどめ永久標本で確定してから再手術を行う場合もあります。若年者で卵巣温存を望み、初期であり、細胞の悪性度が低い場合には患側の附属器切除とリンパ廓清で経過観察する場合もあります。術後病理検査の結果により、化学療法を追加する場合があります。卵巣がんは他のがんに比べて、進行した場合でも再発の場合でも化学療法が有効なことが多いので粘り強く治療しましょう。