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■ 妊娠中の貧血-軽度なら食事療法で-2007. 9.28

Aさんは現在妊娠30週目。時々めまいがする。血液検査で貧血を指摘された。胎児に対する影響が心配でかかりつけの先生にたずねた。
妊婦貧血は全妊婦の約20%に発症し、妊娠30週前後によく起こる。多くは鉄欠乏性貧血であるが、まれに葉酸欠乏性、あるいは再生不良性貧血などの血液疾患を背景に持つ場合もある。妊娠後期には子宮や胎児の発育に伴い、鉄分の需要が高まるとともに、一方では生理的にも循環血液量が約50%増加する。赤血球も増加するが25%増加にとどまるので、その分、検査上貧血となるのだ。一般にヘモグロビンは妊娠8ヶ月に最低となり、以後増加、分娩後に正常化する。以前は母体の貧血では胎児貧血、胎児発育不全をおこすことが懸念されていたが、母体貧血が実際に胎児貧血と直接関係することは少なく、最近は妊娠後期の血液希釈は血液循環を改善させ、血栓塞栓の予防効果があるなどのよい面も評価されている。したがって軽度の貧血では鉄剤投与を行わず鉄分、V12 葉酸などを食事あるいはサプリメントで摂取する指導が行われる。中等度以上の場合は食事療法に加えて鉄剤投与が行われる。経口の鉄剤で消化器症状(むねやけ、むかつき、嘔吐)が強く、服用が困難な場合は点滴あるいは静脈注射で補う。Aさんは中等度以上の貧血があったが背景に疾患はなく、鉄欠乏性貧血と診断された。経口鉄剤は服用できなかったので、食事療法と注射で改善をみた。

日本経済新聞  9月25日掲載